「コピーライターが会社をつくって学んだこと〜(株)parks 3年目の今〜」

開催日:開催日:2019年2月27日(水)

2019年初開催となる「モノカキモノ会議」。第11回目のゲストとして登場いただいたのが、株式会社parksの久岡崇裕さん。2013年にフリーランスのコピーライターとして独立し、2016年に法人化されました。フリーランスとして1人で活動する人は多いけど、株式会社を設立してスタッフを雇う人は、かなり少ないのではないでしょうか?フリーランスとして働く、ギルド的なチームを組む、会社に所属しながらフリーランスのような働き方をする…。働き方の選択肢が広がっているなかで、なぜ法人化を選んだのか。久岡さんのこれまで道のり、そして、感じていることなどをたっぷりと語っていただきました。

 

文・眞田健吾(STUDIO amu)

モノカキモノ会議

profile

ゲスト:久岡崇裕さん

株式会社parks

代表取締役/コピーライター

大阪のコピーライター事務所で7年半修行を積ませてもらい、2013年、企画・取材・コピーライティングを柱にparksという事務所をはじめました。翌年には社員を迎え、2016年7月に法人化。ブランドメッセージやコンセプトづくり、企業・地域のみなさんへのライティング研修など、言葉を起点にいくつもの活動が広がっています。日本中、どこへでも行きます。

https://park-s.jp

【賞歴】

2007年 第1回SBSラジオCMコンテスト 協賛企業賞

2008年 第46回宣伝会議賞 協賛企業賞

2010年 第48回宣伝会議賞 協賛企業賞

2013年 2013 日本 BtoB 広告賞 ・企業カタログ<会社案内・営業案内>の部 銅賞

 

とあるライターの赤裸々白書。

理想と現実。その間でゆらいでいる真っただ中。

いきなりですが、今回のイベント通じてこんなことを思ったんです。

「成功例というよりは、ドロドロした失敗例が多くなりますが、こういうヤツがいるんだなと優しく聞いていただけたら」という、久岡さんの言葉からトークは始まりました。まさにその言葉通り。約2時間のトークで語られたのは、独立前から現在に至るまでの成功や失敗、苦悩、葛藤など、リアルなエピソードの数々。

そこには、見習うべきこと、共感すること、反面教師にするべきこと(久岡さんごめんなさい!)など、たくさんのヒントが詰まっていました。

お話いただいた濃厚で盛りだくさんなエピソードの中から、特に印象に残ったものをご紹介します。

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勝負は独立前から始まっている。

すでに独立しているクリエイターの方は、独立前の準備に何をされましたか?僕は前職の会社に報告へ行き、名刺を作って…と、これぐらいでした。後は独立後に動けばいいと思い、えいやっ!と勢いで独立したタイプです。しかし、久岡さん曰く「独立には準備が大切」と、独立に向けて行った準備を紹介してくれました。

 

・事務所開設

・一人なのに代表と名乗る

・固定電話・FAX・自社ドメイン契約

・ロゴ・名刺・封筒・挨拶状の制作

・税理士さんと契約

*   *   *

久岡さん「独立する前は、コピーライター事務所に勤めていたんですが、その当時『コピーライターなのに会社でやってるの?』と珍しがられました。それと、フリーランスのコピーライターの名刺には、住所は自宅兼事務所、メールはgmailを書いていることが多かった。その経験から”事務所を構え、会社をしていると印象に残る”と考えたんです」

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紹介された準備項目は、そこから導き出された答え。”自分が周りからどう認識されるか”を意識した、セルフブランディングの考え方だと思います。「税理士さんと契約」という項目も、「お金のことに時間を取られたくない。とにかく書いて、書いて、スタートダッシュしたかったから」とおっしゃられました。

 

ここまで入念な準備とビジョンを持って、独立される方は少ないんじゃないでしょうか。セルフブランディングに関しては、独立5年目の僕も模索中です…。

 

「雇用」という大きな壁。

2013年6月、晴れて「parks」という屋号を掲げて独立した久岡さん。万全の準備もあって仕事は順調、色々な仕事が舞い込み、華麗なスタートダッシュに成功しました。しかし、仕事に追われる毎日に、精神的な限界が来てしまったそうです。

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久岡さん「今後このぺースで仕事をやっていく自信がなくて…。”ひとりで、ここまでできるんだ”という自信と、“ひとりだと、ここまでしかできない”という限界を感じ、1年目にしてスタッフを雇うことを考え始めたんです。しかし、独立直後のご祝儀仕事で忙しいんじゃないか…?独立前まで家族を養うのがギリギリだった人間が、独立1年も経たずに人を雇ってもいいのか…?と、葛藤がありました」

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悩みに悩んだ独立2年目の夏、当時大学生だったスタッフを週2回のアルバイトとして採用。翌年4月には正社員として迎え入れました。「独立して最初の壁は、人を雇うかどうか」と久岡さんはおっしゃられました。人を雇うことで得られるメリットと、それに伴う責任と重圧。人によって考え方が異なる部分だと思いますが、久岡さんはスタッフを雇うことを選択したそうです。

 

スタッフを雇ってよかったことについては、「精神的な安定感」が挙げられました。これは、10ある仕事のうち、3をスタッフに渡して、自分は7に専念できるということ。一人で仕事をしているクリエイターには、痛いほど分かるのではないでしょうか?年に何度も「分身したい!」と思っている僕も、大きく頷いたポイントです。その他にも、「駆け出しのフリーから、同じ経営者の扱いへ」、「自分だけでは来なかっただろう仕事が来る」、「アイデアの切り口が増える」、「新しい仕事へ挑戦できる余裕が生まれる」などのメリットが挙げられ、なるほどなぁ~!と納得でした。

モノカキモノ会議

法人化の理由と意外なメリット。

フリーランスとして独立してから4年目に、「株式会社parks」として法人化。そこには、とても現実的な3つの理由があったと言います。

 

1.税務上のメリット

個人事業主は開業から3年、法人は2年、合わせて最大5年間は消費税の納税免除があります。資金を少しでも蓄えたい時期に、とてもありがたい制度だとおっしゃられました。(8%は大きいです!)

2.社員への心象、採用面での心象

「個人事業主よりも株式会社の方が、安心して来てもらえる」と、まだ無名の事務所がゆえに、採用時のイメージを少しでもよくしたいと思ったそうです。(株式会社の安心感はありますよね)

3.代理店との契約

契約を結ぶ際に、法人の方が心象がよかったり、法人としか契約しない代理店もあります。なかには、個人事業主には消費税をつけてくれない代理店もあったとか!(それは厳しすぎです…)

 

続いては、法人化してよかったこと。

・経営者の方と、より近く話せる

・ブランドメッセージの強度

・売上がアップした

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久岡さん「法人化した当時は30代後半で、経営者へヒアリングする仕事が増えていました。規模は違えど、リスクを背負って会社経営している同じ立場になったことで、共通の感覚が持てたと思います。コーポレートメッセージなど、自分がやりたい仕事に近づけた感覚もありました。また、ブランドメッセージを作るときにも、より深く、芯のあるメッセージを作れるようになったと思います。売上のアップについては、法人化2年で40%以上も伸びました。単価のアップもありますが、法人だから高めの見積もりでも通りやすくなったのかも?」

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法人化のメリットは本当にいろいろ。コピーライティングに直接活かせるメリットがあったのは、とても意外でした。もちろん、久岡さんの質の高いアウトプットがあればこそのメリットですが、検討する価値はあるのではないかと感じました。(人を雇う覚悟も必要ですが…)

 

成功像を変えられた、大きな過ちの末に。

これまでの経緯、法人化の理由&メリットなどを、包み隠さず語ってくれた久岡さん。しかし、法人化後には、久岡さんの経営観を大きく変えるできごとがあったそうです。

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久岡さん「独立から5年目の3月、過去最高の月間売上を達成しました。しかし、時期を同じくして男性スタッフが音信不通になってしまったんです…。繁忙期の過度な仕事によって、精神的に追い込まれた末のできごとでした。これまでの僕は、5速以上のギアで走り続けていました。自分は多くの仕事をこなしている、だからスタッフもこれくらいはやれ、という感覚だったと思います。しかし、冷静に考えれば経験の浅い新人には荷の思い仕事量。無理をさせてしまってたんです…。気がつけば、Parksという公園は不毛地帯になっていました」

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それまで久岡さん持っていた成功像は、技を磨き、誰もたどり着けない高みを目指す、漫画『バガボンド』的な孤高の野武士。しかし、この考え方は経営者ではなく、プレイヤー発想だということに気づかされたそうです。

 

“拡大よりも、拡充を”

 

この経験から生まれた新しいparksのテーマがこの言葉。Parksという公園を広げるだけではなく、中にいる人々が心地よく過ごせるよう充実させていくこと。

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久岡さん「新しい成功のイメージは、みんなが集まって何やら楽しそうにものを作っているのを、端からニコニコ見守るおじいちゃん園長。parksが同窓会をやるよ、となれば、全国から100人くらい集まってくれるような、そんな代表になれたらと思うようになりました」

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それ以降、案件の棚卸、外部の協力スタッフ「parksライターチーム」の発足、社外からの修業者の支援など、さまざまな改善に着手。心地よい繋がりを広げることを大切に、parksをより素敵な公園に育てようと思っているそうです。

モノカキモノ会議

約2時間のトークは本当にあっという間!親近感が湧く部分があり、僕は分からない経営者の孤独もあり、考えさせられるお話ばかり。ここには書き切れない、貴重なエピソードもたくさん語っていただきました。特に最後の成功像を変えた失敗談。追い風が吹いているときほど、足元を見なければならない。油断していると、時間をかけて積み上げた塔に、亀裂が入り始めているかも知れません…。

見るべき足元は、会社だったり、家庭だったり、信頼だったり、人によって違うと思います。しかし、経営者、フリーランス、会社員、誰にも共通する教訓じゃないかと感じました。これが理想と現実。しっかりと肝に銘じたいと思います!

モノカキモノ会議では、「モノを書く」ということを仕事のベースにしている人たちが集まり、情報を渡しあえる場所として、今後もイベントを定期的に開催していく予定です。

お会いできなかった皆さまも、ぜひお気軽にご参加ください。議題も受けつけておりますので、みなさまからのご意見お待ちしておりま〜す!