- レポート
「恋愛小説家と料理研究家。これがリケジョふたりの生きる道」
開催日:2018年5月15日(火)
第9回目のゲストは「理系」分野の取材と執筆を得意ジャンルとしているライター集団「チーム・パスカル」の女性メンバー、寒竹泉美さんと平松紘実(サリー)さん。おふたりは理系ライターとして活躍しながら、寒竹さんは「恋愛小説家」、平松さんは「料理研究家」としても活動されています。今回は、いつもモノカキモノ会議のレポート原稿を書いている私、西道紗恵が聞き手役を担当。理系ライターをめざしている人、書く仕事の幅を広げたい人など、活動のヒントになるようなお話をたっぷりと語っていただきました。
文・西道紗恵(parks)
profile
ゲスト:寒竹泉美さん
理系ライター集団「チーム・パスカル」のメンバーで、恋愛小説家。 小学生のときから小説もどきを書き、中学生のときには学校中に「小説家になる」宣言をしていたが、理系のほうが小説家として目立ちそうという理由で理系の進路をとり博士課程を終えた頃に、まだ小説家デビューできていない自分に焦り、ようやく本気になる。 京都大学大学院医学研究科修了。大学院では神経生理学を学び、アルツハイマー型認知症の基礎研究を行う。博士号取得1年後の2009年に『月野さんのギター』(講談社)で小説家デビュー。恋愛小説家として活動していたが、2017年に理系ライター集団「チーム・パスカル」に出会い理系ライターデビュー。ライフサイエンス分野の取材・執筆を得意とする。
ゲスト:平松紘実(サリー)さん
理系ライター集団「チーム・パスカル」のメンバーで、科学する料理研究家。 京都大学農学部卒業、京都大学大学院農学研究科修士課程修了、平成22年度 京都大学総長賞受賞。 生き物がつくられる仕組みを学び、研究者になろうと農学部に入学するが、食品科学などの授業を受けるうちに、科学の中に「料理がおいしくできる仕組み」があることを知り、料理と科学の関係に興味を持つようになる。 現在は「”おいしい”を科学する」「科学をわかりやすく楽しく、より身近に」をテーマに、執筆やレシピ開発、メディアやイベントへの出演など幅広く活動。著作に『おもしろい!料理の科学』(講談社)などがある。
おふたりが所属する「チーム・パスカル」 Webサイトはこちら→
聞き手:西道紗恵(株式会社parks)
1993年生まれ。コピーライター。大学4年生の夏に、現職である広告制作会社 株式会社parksの代表に出会い、コピーライターとして活動開始。現在は入社4年目。企業の採用ツールや大学案内、食品メーカーのWebコンテンツ、ドライブ情報紙など、コンセプトメイキングからコンテンツライティングまで幅広く手がける。
「理系ライター」×「恋愛小説家」「料理研究家」
まずは、おふたりの仕事内容について。 理系ライターとしてのお仕事は、「チーム・パスカル」経由で仕事を受けることが多いそうで、専門書から、一般の人に向けた科学読み物まで、幅広く執筆されています。
【寒竹さんのお仕事 理系ライター編】
【平松さんのお仕事 理系ライター編】
理系ライターの傍ら、寒竹さんは「恋愛小説家」、平松さんは「科学する料理研究家」としても活動中。本の執筆をはじめ、イベントへの登壇やラジオ出演など、活動も多岐にわたります。
【寒竹さんのお仕事 恋愛小説家編】
【平松さんのお仕事 料理研究家編】
ちなみに、平松さんは理系ライターでは平松紘実、科学する料理研究家では平松サリーとして、名前を分けて活動されています。
—おふたりにとって、理系ライターのおもしろさとは何でしょうか?
寒竹さん「科学ってすごくおもしろい分野なのに、それをわかりやすく伝える人が少ないように思います。研究そのものはおもしろくても、研究者が書くとどうしても伝わらないことが多いんですね。だから、私のような理系ライターが存在して、わかりやすく・おもしろく伝える役目をさせてもらっていることが楽しいです」
平松さん「私は、知らないことを知れるのがおもしろいです。研究者にインタビューするときにも、事前準備のために勉強をしたり、研究者からも直接、いろんな話をインプットすることができる。それに私は、書くときに『こんな本や教科書があったらいいな、わかりやすくておもしろいだろうな』と思いながら書くようにしていて、理想のものが書けたらそれも楽しいですよね」
—理系分野をわかりやすく書くコツを教えてください。
寒竹さん「理系ライターで大事なことは、理系の専門性があることよりも、どれだけ研究の内容に興味を持てるか、話に食いついていけるかだと思うんです」
平松さん「私は農学が専門ですけど、専門外の仕事を受けることのほうが多いです。自分の専門といっても、本当にせまーい世界なので、自分が専門知識を持っていることよりも、専門的な資料をきちんと読み込もうと思えるか、理解できるまで聞こうと思えるか。そういう姿勢のほうが大切だと思います」
寒竹さん「私は生命科学が専門だけど、ほんとに使えない(笑)。だから、わかったつもりにならないで、わからない人の気持ちになって、わかるまで聞くことが大事ですよね」
平松さん「そうですね、自分がわかってないことを読者に伝えることはできない。だから、この一文ってどういう意味ですか?と聞かれても、説明できるレベルまで理解してから、噛み砕いて書く。3000字の原稿を書くとしたら、それに必要な倍の情報量が頭のなかに入っていないと書けないと思います」
寒竹さん「あとは、専門外の人に原稿を読んでもらうのもひとつ。それでわからないって言われたら、何度も書き直してみると良いと思います」
—文系出身でも、理系ライターになれますか?
平松さん「パスカルも理系ライター集団って言ってますけど、全員が理系出身というわけでもないんですよ。文理それぞれ半分くらいでしょうか」
寒竹さん「私は大学院で博士号を取得しているので、理系ライター楽勝!私のための仕事だ!って思っていたんですよ。でも実際やってみると逆で。専門性があると、どうしても「これくらいのレベルはわかるだろう」と思って書いてしまうこともあるんです。だから、理系に詳しくない文系の人が、本当にわかるまで聞いて書いたら、一番わかりやすくて伝わる原稿になるんじゃないかと思います」
「2足のわらじ」を履くコツとメリット
—理系ライターと恋愛小説家。理系ライターと科学する料理研究家。切り替えが難しいのではないでしょうか?
寒竹さん「小説家は0から生み出す仕事。ライターは資料やインタビューをもとにわかりやすくまとめる仕事。おなじ書く仕事と言っても、路線が全く違うんです。仕事とプライベートを分けるのと同じように、小説家とライターではモードが違うから特に困ったことはありません。それに、私にとってライターの仕事は情報をインプットするのにも役立っているので、自分のなかから生み出しては補給して、というサイクルができているように思います」
平松さん「私は食べることが好きなので、科学する料理研究家は趣味を仕事にしているような感じです。でも、もともと飽きっぽい性格なので、1ヵ月のうち20日もずっと料理と向き合い続けるのも大変だなって。そこでパスカルと出会ってライターの仕事もするようになり、うまくバランスがとれるようになったと思います。料理の仕事の次はライターをして、飽きたころに料理をしてというように、塩っぱいのと甘いのを交互に食べていたら飽きないですよ(笑)」
寒竹さん「時間配分で言うなら、小説は小説だけの時間をとらないと書けないので、ほかの仕事を片付けてから執筆時間を確保するようにしています。長編の仕事が入ったときは1日のノルマを決めてエクセルで管理して、1日ごとのスケジュールを見える化しています」
平松さん「私は、1日のなかで理系ライターと料理研究家の仕事を混同させないようにしています。今日はサリーの仕事、今日は紘実の仕事、というようなスケジュール調整を心がけています」
—2足のわらじを履くメリットは何でしょうか?
寒竹さん「小説家の評価は、売れるか売れないか。競争も激しくて、ランキングも毎日出るんです。そのランキングを見て、次の依頼があるかないかを考えては、作家たちはみんな戦々恐々。だんだん心が荒んでくるんですよね。一方ライターの仕事は、編集者の方が一定の評価をくれます。いい仕事をしてくれたから、また次もお願いねと言ってくださる。評価をいただける点では、満たされる仕事だと思います。でもライターばかりやっていると、自分の書きたいことを100%書くことはできません。だから私は、小説で自分の書きたいことを書く。両方できると心がおだやかに、健やかになりましたね」
平松さん「それはわかる気がします。両方のいいところをちょっとずつとると、精神的に安定しますよね。片方だけというのも、ちょっとしんどい。自分の名前で仕事をしていると、自分の名前がどれくらい売れるのかが大きなポイントになってしまって、自分はどこに向かっているんだろうという気持ちになっちゃうんですよね。それだけじゃなく、社会とつながって、一人の人にきちんと仕事を認めてもらって、じゃあ次回もよろしくって言ってもらえるとほっとします」
—2足のわらじを履こうと考えている人へ、アドバイスをお願いします。
寒竹さん「まずは道を広げたいって宣言することだと思うんですよね。ふつうなら、小説家にライターの仕事がくることってほとんどないけど、『いろいろやりたい!』と言っていると、『これもお願いできるかな?』と周りから声をかけてもらえるようになる。この人にお願いしてみようかなと思ってもらえる人になるのが、大事じゃないでしょうか」
平松さん「自分がこれまでにやってきたことや、できること、受けたいと思っている仕事を公表していると、相手にも安心して依頼してもらえるので、ホームページに書いておくとか、日々言いつづけたほうがいいと思います。それと、それぞれの仕事が相互にいい影響を与え合っていると思いながら仕事をすること。実を言うと、2足のわらじを履くよりも、ひとつのことに専念している人のほうが成果も出たり、もっと上にいけるんじゃないかって思うときもあるんですよね。でも、ライターの仕事で得た科学の知識が、科学する料理研究家としてのキャリアにも活きてきたり、あるいは料理研究家の仕事をしていると、ライターから始まった仕事でも依頼の幅が広がることもあって。それぞれの可能性が広がるような履き方をすると良いかもしれませんね」
今回、おふたりのお話を聞くまで、「理系ライター」って遠い存在だと思っていました。私もふだん、研究室の原稿を書くことがありますが、専門的な内容になると頭の中はぐちゃぐちゃ。何から書けばいいのか分からない。やっぱり理系分野は書けないなあって落胆していたんです。でも今回の話を受けて、まずは専門性よりも、興味を持ってわかるまで聞く姿勢が何よりも大切だということがわかりました。くわえて、2足のわらじを履くコツとメリットのお話にも、ふだんの仕事に活かせる仕事術が詰まっていました。私はスケジュール管理が苦手なので、まずは見える化をするところから徹底していこうかと思います。
モノカキモノ会議では、「モノを書く」ということを仕事のベースにしている人たちが集まり、情報を渡しあえる場所として、今後もイベントを定期的に開催していく予定です。
お会いできなかった皆さまも、ぜひお気軽にご参加ください。議題も受けつけておりますので、みなさまからのご意見お待ちしておりま〜す!