- レポート
「岡田直也さん、大阪への遺言!」
開催日:2018年1月17日(水)
「モノカキモノ会議」第8回目のゲストは、博報堂から独立し、15年以上に渡って大阪で活動してきた岡田直也さん。今回は、拠点を東京へ移されるとのことで、大阪のモノカキたちにむけた「遺言」をいただく場。言葉に誰よりもこだわる岡田さんの日本語論や、大阪のモノカキ事情など、大阪のモノカキたちの活動指針になるようなお話を、たっぷりと語っていただきました。
文・西道紗恵(parks)
profile
ゲスト:岡田直也さん(岡田直也事務所)
1955年生まれ。コピーライター・クリエイティブディレクター。
TCC最高賞、ADC最高賞、OCCクラブ賞、朝日・読売・毎日広告賞など受賞多数。
代表作は豊島園遊園地「史上最低の遊園地」「プール冷えてます」、西武百貨店「川崎事件」「足りないものは何ですか」、トヨタ自動車、コニカ、ダイドードリンコ、シオノギ製薬、そごう「なにわ遊覧百貨店」など。
第1部:日本語が壊れている。
第1部のテーマは、「美しい日本語を次世代へ」。
これまでは新聞や書籍などプロの文章が世に出回っていたのに対し、今はブログやSNSなど素人が書いた文章のほうが、人々の目に触れる機会も多くなっています。
そこで岡田さんがおっしゃったのは、「ライターもプロフェッショナルな校正の目を持っていないといけない」ということでした。
* * *
岡田さん「これまでは、コピーライターが書いた文章を校正のプロがチェックして、正しい日本語に直してくれていたけど、今はライター自身で校正をしなくちゃいけない。でも今、プロのライターでさえも誤った日本語を使ってしまっていることがある。
たとえば……、『気のおけない』。これは本来、気をつかう必要がないほど、親密な間柄であるさまを意味する言葉。しかし、若年層では『気を許せない』という誤った意味で理解されているんだそうです。
同じように『失笑』も誤用されやすくなってきました。本来は思わず笑っちゃうという意味だけど、今は『笑顔がなくなる』『顔がこわばる』と思っているひともいるらしいですね。
次に『固執』。コシュウ・コシツ、どちらの読みが正しいでしょう?答えは、コシュウ。『執』には執刀、執筆などのようにシツと読む場合には『手にとって操作する』という意味が、執念のようにシュウと読む場合には『極める』という意味があります。固執は『簡単に変えないこと』、つまり『極める』という意味ですから、コシュウと読むのが正解です。
さて、『早急』はどうでしょう。サッキュウ・ソウキュウ、どちらで読みますか?正しいのは、サッキュウです。英語でいうearly・quickのうち、quickの意味で使う場合、早は「サツ」と読みます。
ライターという名のつく職であれば、日本語のプロであれ。言葉に責任をもてる人であってほしいと思います」
* * *
いかがでしょうか?
私も“プロ”を名乗っていますが、大学で日本語学を専攻していたわけでもなく、自分の使っている日本語に100パーセント自信をもてるか、と言われるとそうでもない時があります。日本語の使い方に誤りがないか、常に辞書をひきながら書く毎日です。
正しい、美しい日本語を使う。
これが、モノカキの基本であり原点といえるのかもしれません。
正しい、美しい日本語を書くための6か条。
今、書いている日本語に自信がない。どうしよう!と思った方、ご安心を。
正しい・美しい日本語を書くための6か条を教えていただきました。
1.まちがいを書かない。
怪しいと思ったら調べること。ただし、ネットは誤情報だらけなので気をつけること!
また、書き言葉で「ら」抜き表現は要注意。「見れる(可能)/見られる(尊敬)」のように、あえて「ら」を抜くことで意味の違いを表現することはできますが、できるだけ正しい表記を心がけましょう。
2.カタカナ・漢字は、適切にひらく。
漢字ばかりの文章は、読みづらい印象を与えてしまいます。
たとえば、宮沢賢治の文章はひらがなが多く、読みやすいうえに気持ちも伝わります。上手にひらがなを使うようにしましょう。
3.表記にこだわる
・「人」を愛する(一般論的)
・「ひと」を愛する(各論的)
・「ヒト」を愛する(生物学的)
同じ読みでも、漢字・ひらがな・カタカナによって、読み手の受け取る意味が変わってきます。
表記の使い方には、より一層の心くばりを。
4.助詞「てにをは」命!
助詞の使い方ひとつで、頭にうかぶイメージが大きく変わります。
たとえば、下の俳句の『 』のなかに「に」「へ」「を」を入れて読んでみてください。
「米洗う前『 』蛍の二つ三つ」
蛍が飛ぶ様ひとつとっても、情景が少しずつ変わってみえませんか?助詞のえらび方にも注意しましょう。
5.見た目にも、読みやすい文章を。
どれだけ読みやすい文章を書いたとしても、見た目に読みづらい印象を与えてしまっては読んでくれません。同じ文章でも改行を入れて、箱組を避けるだけでぐっと読みやすくなります。これは、紙でもWebでも一緒。内容だけではなく、見た目にもこだわって書きましょう。
同じ文章でも改行を加えたのが下。ぜひ、比較してみてください。
(短文だと分かりづらいかもしれませんが……)
【改行バージョン】
どれだけ読みやすい文章を書いたとしても、
見た目に読みづらい印象を与えてしまっては読んでくれません。
同じ文章でも改行を入れて、
箱組を避けるだけでぐっと読みやすくなります。
これは、紙でもWebでも一緒。
内容だけではなく、見た目にもこだわって書きましょう。
6.美しい日本語を読もう!
大正・明治あたりに書かれた文学作品は、日本語の使い方がとても美しく、読むことで美しい日本語を自然と身につけることができます。夏目漱石、芥川龍之介など、自分のお気に入りの作品を見つけて、日本語のリズムや文章の流れを参考にするのもいいでしょう。
* * *
岡田さん「言葉と自然はとても似ていると思います。どちらも、ぼくらが生まれる前から大きな体系として存在している。そして今、無知なるがゆえに、もとの姿が失われつつある。今に生きるぼくらは、どちらも次世代に伝えてゆく義務があるはずです。美しい自然と同じように、美しい言葉を一緒に守っていきましょう」
* * *
私はこの6か条を受けてみて、言葉への心くばりが浅かったなと思いました。
これまで、正しい文章を書けていたかどうかという不安も感じましたし、とても繊細な日本語に対して、すこし雑に扱っていたように思います。
もっともっと丁寧な言葉えらびと、読む人への思いやりを心がけたいと思います。
第2部:岡田さんの遺言。
イベントの第2部は、岡田さんを囲み、大阪への「遺言」を頂戴する会。ドリンクと軽食を片手に、参加者のみなさんとともに熱いトークが繰り広げられました。あまりに盛り上がったため、なんとイベント時間を30分ほど延長。特に印象にのこったお話をピックアップしたいと思います。
大阪は2番手ではない!?
岡田さん「きっと大阪人の多くが、『大阪は東京に次ぐ都市だ』と思っているかもしれないけど、今は名古屋や福岡の勢いに負けている。2番手の候補は名古屋。リニア開通にともなって、街全体も盛り上がるはず。関西は、京都・大阪・神戸の連携が弱いよね。この三都が連携して横のつながりが強まれば、もっとおもしろいことが生まれるはず。おもしろい人は大阪にもたくさんいるんだから、手を取り合ってほしいです」
東京に行ったら帰ってくること
岡田さん「大阪は、若い人と高齢者は多いけど、働き盛りの30〜40代が少なくない?みんな、東京に行ってしまったきり、戻ってこない。東京へ修行に行くのはいいけれど、学んだことを大阪に持って帰って還元すること!」
大阪の強みを活かそう
岡田さん「福岡は大陸を向いている街だから、東京には目も向けないで独自の価値観が成り立ってきているし、北海道は島だから東京に行く必要もなく道内で完結している。大阪の強みは?特徴は?あらためて考えて、活かしてみてほしい」
今回のモノカキモノ会議を通して、プロのモノカキとして最低限つかんでおくべき「日本語力」と、外から見た大阪の姿を知ることができました。正直、大阪は2番手(2番手も悔しいけど)と思っていたので、そのポジションすらも危ういと知り、これは何とかせねばと思いました。
大阪ならではの強みは?それを活かす方法は?今はパッと出てこないけど、ライター修行を積みながら、大阪でもっと頼りにされる人物に成長していきたいです。
そのなかで、これまでのモノカキモノ会議を受けてきて、少しずつ自分の理想とするライター像や将来像が見えてきたように思います。そこを目指すためにも、まずは今回教えていただいた日本語の美しさ、正しい使い方を見直して、日本語力を高めることから再出発しようと思います。
モノカキモノ会議では、「モノを書く」ということを仕事のベースにしている人たちが集まり、情報を渡しあえる場所として、今後もイベントを定期的に開催していく予定です。
お会いできなかった皆さまも、ぜひお気軽にご参加ください。議題も受けつけておりますので、みなさまからのご意見お待ちしておりま〜す!