「ネルソン水嶋の『絶対になってはいけない(でもなってほしい)海外在住ライター話』」

開催日:2017年8月18日(金)

第6回目のゲストは単身でベトナムへ渡り、ベトナム紹介ウェブメディア「 べとまる 」を立ち上げ、数々の賞を獲得するまでに育て上げたネルソン水嶋さん。「ならざるを得ないという状況でもない限り、わざわざ海外へ行ってライターをやろうなんざ、ほとんど勝ち目のない博打です」と語るネルソン水嶋さんが成功をつかんだ理由とは?さらに、海外在住ライターとしての本音話、ウェブメディアを企画・運営する秘訣などをたっぷりお話いただきました。

文・西道紗恵(parks)

profile

ゲスト:ネルソン水嶋さん

1984年生まれの33歳、大阪の京橋出身(ええとこだっせ)。学生時代は広告クリエイターに憧れて宣伝会議コピーライター養成講座などの広告塾へ通ったが、なぜか東京でエンジニアになってしまい、なぜかベトナムでライターになってしまった。2011年末からベトナムのホーチミン市に住み始めて今年で6年目。ベトナムや海外に関わる、サイトの運営・編集、記事の寄稿、ツアーの企画を中心に行っている。

→ベトナム紹介サイト「べとまる」http://www.vietmaru.com/

→Twitterアカウント https://twitter.com/nelson_mzsm

 

ドリアンマン、参上。

イベントがスタートするなり待機室から出てきたのは、ネルソン水嶋さん…ではなく?!、南国フルーツ“ドリアン”を模したコスチュームをまとった「ドリアンマン」!

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ドリアンマン「どうもはじめまして、ネルソン水嶋です」

会場のみなさん「…(失笑)」

見事なスベりだし。

 

ちなみに、ネルソンさんがなぜドリアンをまとっているのかは、こちらの記事からどうぞ。

→『ドリアンを装備したらベトナムで人気者になった話

 

そして、トークがはじまるかと思いきや、いきなりベトナム語の乾杯音頭「Một Hai Ba Zo(モッハイバーヨー)!」でまずは乾杯。

お察しのとおり、今回のモノカキモノ会議はいつもに増して、爆笑と苦笑の連続。海外で生きていく人の勢いの強さを、開始後数分にして肌で感じました(笑)。では、そんな2時間から、特に印象的だった内容をお伝えします!

 

クリエイターへの“憧れ”と、“こじらせ”。

2011年の秋から、ベトナムのホーチミンに移り住み、ライター・編集者・ツアープランナー・リサーチャーなど多岐にわたる活動をしているネルソンさん。実は、大学を卒業してからの5年間は、東京でシステムエンジニアをされていたそうです。ベトナムでライターになるまでに、「3度、クリエイターへの憧れをこじらせた」んだとか。

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ネルソンさん「大学は理系だったんですけど、広告クリエイターを目指していました。宣伝会議のコピーライター養成講座に通って、広告業界で就職活動をしていたんです。でもなれなくて、大学の学びを活かせるシステムエンジニアの道を選んだ。それが、棒にとってはクリエイターを目指す上では最初の失敗というか、クリエイターへの憧れをこじらせたんですよね(笑)」

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ネルソンさん「でも、エンジニアをやっているなかで、自分に納得がいかず、やっぱりクリエイターになりたいという夢を捨てられなかった。某面白法人の面接も受けたけど、落ちちゃって。それが、2度目のこじらせ。次の転職先を決めずに、無職になりました」

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ネルソンさんって、最初はSEだったんだ!めっちゃふざけた格好してるけど(スミマセン)! DSC_0041

さすが、トゲトゲを身にまとうだけあって、クリエイターへの憧れもトガッてるなと。自分の本当にやりたいことを諦めずに挑戦し続けたところに、ネルソンさんの強い想いを感じました。

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ネルソンさん「当時27歳、無職。まだ一度も海外に行ったことがなかったのがコンプレックスだったから、傷心旅行という名の海外旅行に行ったんです。アジアからヨーロッパまで、幅広く。そこでベトナムに行った時に、現地で働いている日本人の方に、うちのWeb制作会社で働かないか?と声をかけてもらいました。新規事業の担当者を探してらっしゃったんです。

厳密にはクリエイターではないけども、当時、クリエイティブという言葉に固執していた。ちょっとでも欠片を感じられるのなら、やろうと。そこで、ベトナムに渡ったんです。それが、2011年の秋ですね」

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旅行先での出会いに即答して、移り住む。その行動力には驚きました。移住生活、うまくいった!かと思いきや…、4ヶ月後に、退職してしまったそうです(3度目のこじらせ)。

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ネルソンさん「入社したタイミングで、社員さんが一人辞めてしまい、結局その方の後任というポジションに就いたんです。新規事業に関わることもなくて、ここまできたらもう、本当にやりたいことだけやりたいなと。やりたくないことは、やりたくない。何のためにベトナムに来たんだ?と問い直して、辞めました。

歯を食いしばって、やりたいことに挑戦して、生きていくことを決めた。結局これまでの自分は、肩書きや会社の名前に縛られるなど、他人任せだったと気づいたんです。おもしろいことって、自分でやっていくしかない。そこで、ベトナムを紹介するウェブメディア“べとまる”を自分で立ち上げて、ライターとして記事を書きはじめました」

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紆余曲折を経て、自分の力で海外在住ライターの道を切り拓かれたネルソンさん。

海外でライターって、どうやってはじめるんだろう?と思っていたのですが、そこにはネルソンさんのクリエイターに対する強い想いと、覚悟、行動力があったんですね。

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海外在住ライターで食べていけるのか?

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ネルソンさん「もし、海外在住ライターになりたいんですけど、どう思いますかと聞かれたら、答えは“やめとけ”ですね。そもそも、海外コンテンツの需要って少ないんです。

日本のポスポート所持率は4人に1人といわれています。そのなかで、東南アジアに行ったことがある、さらにベトナムとなると、10人に1人もいないのではないかなと。その点で、日本での海外コンテンツは需要が少ない。あったとしても『観光』か『ビジネス』、どちらかのトピックなんですよね」

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たしかに言われてみると、自分からベトナムの情報に興味を持ったり、検索することってほとんどありません。あったとしても、旅行に行きたいからトラベルサイトでスポット情報を見るくらいでしょうか。

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ネルソンさん「あと、インターネットというのは、自分の興味の範囲内でしか見られないんですよね。その中で、『検索』と『クリック』によって、海外コンテンツにまでたどり着く人は少ないというのが、私の仮説。つまり、海外在住ライター、コンテンツの需要があまりにも少ないということです」

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椅子がないにもかかわらず、なぜネルソンさんはベトナムに在住し、活動を続けていられるのでしょうか。

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ネルソンさんWebメディアのライター需要が高まったからだと思っています。大企業によるオウンドメディアブームをはじめ、メディアで読み物コンテンツを充実させていくために、ライターを発掘する風潮が高まっていた時期と重なりました。話題になったキュレーションメディア問題もあり、きちんと取材して文章も書けるというスキルが見直されたのも追い風になりましたね。

僕自身、デイリーポータルZやYahoo!で賞をもらったことを受けて、海外とは関係のないメディアで書くことが増えたんですよ。海外コンテンツだけに特化したメディアだったら、椅子の取り合いになってると思いますが、海外とは関係なくウェブコンテンツ全体で考えれば、ライターを探しまくってる時代。もちろん相応の能力は必要ですが、Webライター自体は座ろうと思えば、実はどこにでも椅子が置いてある“野外フェス状態”なんですね」

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つまり、海外在住だけど、現地情報だけじゃなく、海外とは関係なく読ませられるコンテンツも書けるライティング力や企画力を身につけていれば、海外在住ライターとしてやっていける可能性は上がるということ。ちなみに、ネルソンさんは“自分がやりたいことしかやらない”ために、現地でアルバイトをすることもなかったそうです。

海外コンテンツを書くコツを直伝!

特に、これから海外コンテンツを書きたい!海外で書いていきたい!と思っている方は必見!ネルソンさんのライター経験から紡ぎ出された書くポイントを、記事の例とともに教えていただきました。

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1.ひねらない

おもしろいものを書こうと思うあまり、記事にいろんな要素を組み込んで、内容をこねくり回すのはNG。

たとえば、『目指せ夢の万犬券!犬が時速70kmで走るドッグレース』という記事は、ベトナムのなかでも日本人にとって馴染みのない「ブンタウ」という街に「ドッグレース」をかけ合わせ、マイナー要素を2つもひねってしまっていることが良くなかったと思うと振り返られました。”海外ネタ”というだけでインパクトがあるから、味付けをしすぎないことがポイント。

2.とっつきやすくする

日本にいる読者の日常との距離が近いキーワードやテーマを組み込む。今度は『ベトナムの丸亀製麺はパクチー盛り放題』をご紹介いただきました。

キーワードは、私たち日本人に馴染みのある「うどん」と、最近話題の「パクチー」。自分と距離の近いものなら、自分ごと化して記事に興味をもってもらいやすいですよね。

3.ただし、無理をしない

自分自身がその珍しさやおもしろさを見出せないまま書くと、やはりPV数も伸びないし、おもしろさや読み応えの浅い記事になってしまうとのことでした。

この3つのポイントをまとめると、つまりこういうこと。

 

日本は「日常の中の非日常」、 海外は「非日常の中の日常」を書く。

 

これが、ウェブウケの真理ではないかと思っている、とのことでした。日本国内のトピックを書くなら、日常のありふれた風景のなかに、新しい違和感や価値観を組み合わせると、興味をもってもらえる。海外のトピックなら、海外という非日常のなかに、自分たちに馴染みのある要素を組み合わせることで、興味をもってもらえる。これは、海外在住ライターだけじゃなく、日本でライターとして書いていきたい人にも当てはまりますね。


ただ、海外在住ライターとして活躍していくスキルだけではなく、クリエイターとしての心がまえや、ネルソンさん自身の人間性、生き方にもふれることができた2時間でした。

私が思うに、ネルソンさんはどこまでも純粋に、「おもしろいこと・つくること・書くことが好き」な人。そんなネルソンさんも、今後はライターではなく、いろんな国のレポートをまとめるメディアを立ち上げて、編集者としての活動を増やそうと考えられているそうです。これからは、Webメディアの海外コンテンツや海外在住ライターの需要も高まっていくんだろうなと、ライターの可能性を感じることができました。

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↑懇親会も、「Một Hai Ba Zo(モッハイバーヨー)!」の乾杯からスタート!

モノカキモノ会議では、「モノを書く」ということを仕事のベースにしている人たちが集まり、情報を渡しあえる場所として、今後もイベントを定期的に開催していく予定です。

議題も受付中!話を聞いてみたいライターさんがいる方、気になるテーマがある方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください!