「広告と映画。二足のわらじで生きてきた」

開催日:2016年8月31日(水)

広告コピーを書くひと、エディトリアルに携わるひと、Webライティングをするひと、ソーシャルな課題を伝えるひと……。『仕事の中心に「言葉」を置くひとたちの集まる場所をつくりたい』、そんな思いではじめた『モノカキモノ会議』。 今回はその二回目として、広告のフィールドで活躍しながら、ライフワークとして映画づくりに携わる吉川信幸さんのお話をお伺いしました。

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吉川信幸さん(富士ゼロックス株式会社)

コピーライター・クリエイティブディレクター・映画監督。株式会社アド電通大阪を経て、現在富士ゼロックス株式会社にて、主にダイレクトメール等の企業販促の企画・コピーライティングに従事しつつ、休日は映画監督として映画製作に取り組む。「人生ってちょっとステキ」を一貫した映画制作のテーマとしており、見終わった後に、あったかい気持ちになれる作品をひたすら作り続けている。主な受賞歴は、第27回全日本DM大賞銀賞、第28回全日本DM大賞銅賞、第51回宣伝会議賞協賛企業賞、第52回宣伝会議賞シルバー、ワンクリックアワード審査員特別賞、第3回NHKミニミニ映像大賞グランプリ、第1回さぬき映画祭グランプリ、第2回アジア海洋映画祭グランプリ、第9回水戸短編映画祭入選、第22回TAMA CINEMA FORUMある視点部門入選、シネドライブ2016観客賞、など多数。

 

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おもしろいことに、まっすぐ

モノを書くことと、映画監督。

一体そこには、どのようなつながりがあるのだろう?と疑問に感じていました。 そもそも、本業をしながら映画をつくるって、時間的にも労力的にも厳しいだろうし、二足のわらじで生きていくって、そんな簡単にできることでもない。 吉川さんの原動力って何なのだろうか?

そんなことが、頭のなかをぐるぐるしていました。

イベントを通して思ったのは、吉川さんは、自分がおもしろいと思ったことにどこまでも素直な人だということです。

「僕は、いわゆる大御所のコピーライターではありません。小御所くらいです」 という、自虐ネタのような自己紹介からはじまり(もちろんそんなことないんですが、思わず私もプ!と笑ってしまいました)、中学生時代から少年漫画「ジャンプ」や、「ファミコン通信」の読者投稿欄に、毎週100ネタを書いて応募していたこと(ネタを見せていただきましたが、見事にすべて下ネタでまたまた笑ってしまいました)、現在も「おもしろくて正しいアイデア」をもとにさまざまなお仕事をされているとのこと。 みんなもワクワクしてほしいし、自分も楽しくておもしろいと感じたことに、とことんまっすぐなんだと思いました。

今回はお話の中から、特に印象的だったエピソードをご紹介します。

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一人ひとりにむけて、つくる

まず、マス広告とDM制作、どちらも経験されてきた吉川さんが、コピーライティングにおいて大切にされていることは、「一人ひとりにむけてつくる」ということ。

つまり、「One to Oneマーケティング」。

現在吉川さんが富士ゼロックスで担当されているDMではターゲットの手元に届いたとき、「これって私のためのものじゃない?」と思ってもらえるように、ターゲットごとに情報や文字、フォント、デザインまでも変えて、パーソナライズ性を高めているそうです。

実際に吉川さんがつくってこられたDMを、いくつか見せていただきました。2013年全日本DM大賞で銀賞を受賞された「JR名古屋髙島屋」のDMでは、お客さまの実名が書かれたワインの写真を掲載し、同じものを来店時にプレゼントするという企画を提案されています。DM本文にもパーソナル性を盛り込むために、お客さまの実名を表記したところ、これまでの施策で来店につながらなかったり、お買い上げがなかった顧客の反応が伸びたそうです。

私が驚いたのは、店頭で実際にお渡しするワインのボトルに貼るネームシールへのこだわり。わざわざネームシールを貼ってワインをお渡しすること自体、それなりに手間のかかることですが、名前の文字数に合わせてデザインの微調整までされていたそうです。シール貼りのためにつくった、お手製のマシン(素材はコピー機のインクトナーの梱包材!)まで見せていただきました。

大多数のお客さまに満足してもらうのではなく、「全員」に喜んでもらうために、とことんこだわる。吉川さんの、ものづくりへの強い思いを感じました。

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日常にある「おもしろい」と組み合わせて

次に、吉川さんのアイデア発想法。既存のものを掛けあわせて、新しいアウトプットを生み出してらっしゃるそうです。

公式にすると、こんなかんじ。

 

『◯×△=!』

 

◯に入るもの

・商品

・メディア

・課題

 

△に入るもの

・日常生活のなかでおもしろい!と思ったこと

 

◯に対して、△をひたすら組み合わせていく。そうすることで、正しくておもしろいアイデア(!)が生まれる。そのために、日頃から「おもしろい!使えそう!」と思ったことは、写真に撮ったりメモをして、引き出しを増やしておくそうです。

 

また、ただおもしろいと思ったことを「おもしろい!」と受け止めるだけでなく、なぜおもしろいのかを考えること。そこから抽出したエッセンスを、別のアウトプットに応用して、新しい表現をつくるという方法も教えていただきました。

たとえば、2014年に全国DM大賞で銅賞を受賞された「阪急交通社」のシニア層向け国内外パッケージツアーのDMでは、インパクト性が求められていたことから、メモにストックしてあった「本の帯の文字がやたらと大きいと目立つ」というエッセンスを応用。お客さま本人の名前が帯に大きく書かれたフォトブック形式のDMを提案されています。結果、同時期に配信されたほかのDMよりも10倍以上のレスポンスがあったそうです。

また、冊子はオフセット印刷、帯はオンデマンド印刷にすることで大幅なコストダウンも実現されています。これまで、印刷方式に着目したことがなかったので、こんな方法でつくることもできるのか!と勉強になりました。

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1/100を、たくさんつくろう

最後に、今回のテーマでもある、二足のわらじで生きていくことについて。広告制作をされている傍ら、ライフワークとして映画製作もされている吉川さん。これまで映画をつくった経験があるわけでもないけど、好きだからつくってみたい。そんな思いで、大学を卒業する頃からはじめられたそうですが、手がけられた作品は20本近く。1分程度の短編から60分もある長編もの、制作費も1000円から数百万円と幅広く、映画祭でグランプリを受賞された作品も数多くあります。

未経験からスタートして、プロから映画のつくり方を教わったわけでもないのに、なぜ周りからも評価されるような作品がつくれるんだろう?と思っていたら、吉川さんが書くシナリオには、広告的な考えが活きているんだそうです。

たとえば広告でも映画でも、まず、結果や結末を決める。次に、結末につなげるトリガーやメッセージを考える。そのための導入となるストーリーを考えて、最後にタイトルをつけるという、逆算のストーリーテリング。

広告業界でコピーを書くという経験が、映画の土台づくりにつながっていました。

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イベントの最後に吉川さんがおっしゃったのは、「1/100をたくさんつくろう」ということ。「さとなお」こと、佐藤尚之さんもおっしゃられていることだそうですが、つまり、「『書く』ことだけで、1億人分の1の存在になることは難しくても、100人分の1くらいにはなれるかもしれない。そこでもうひとつ得意分野を増やして1/100×1/100を重ねれば、1万人分の1の存在になれる。ひとつの分野でトップになれなくても、さらに掛け算を増やしていけば1億人分の1の人間になることも難しくないかもしれない」ということです。

映画づくりのための時間をつくるのもキャスティングも、苦労は多々あるそうですが、それでもやっぱり楽しい!と、笑顔で語られた吉川さん。次は長編映画に挑戦されるそうです。

「好きこそものの上手なれ」といいますが、自分が好きなこと、おもしろいと思ったものに素直になって、行動していく大切さを改めて実感しました。


今回のモノカキモノ会議は、広告業界の未来や可能性が見えたと同時に、今後の生き方を考えさせられた2時間でした。私も今は100人に1人どころか、3人に1人くらいの人間なんだろうと思いますが、書くことを基点に、これから可能性を広げていきたいと感じました。目指せ1億分の1!そのためにも、もっと日常にアンテナを張り巡らせていこうと思います。

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↑イベント後の懇親会の最後の最後までいてくださったみなさんと!

 

『モノカキモノ会議』ではこうしたイベントを定期的に開催していく予定です。この日、お会いできなかった皆さまも、ぜひお気軽にご参加ください。議題も受けつけておりますので、みなさまからのご意見お待ちしておりま〜す!

文・西道紗恵(parks)